DIALux evoを正しく使うために ― 光を「知識」ではなく「体験」から学ぶ
目次
DIALux evo はあくまでツール
DIALux evoは、世界中の照明設計者に活用されている強力なソフトウェアです。
実際の照明器具のデータを基に照度計算を行い、光の広がり方をシミュレーションできるため、プロの現場でも十分に信頼できる精度を持っています。
しかし忘れてはいけないのは、DIALux evoはあくまでツールであるということ。
表示された数値やシミュレーション結果をどう解釈し、どう設計に反映させるかは設計者自身の判断に委ねられています。
知識だけでは限界がある
もちろん、照明に関する知識は必要です。
照度や光束
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同じ3000Kでも壁の色によって見え方が変わる
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同じ500ルクスでも空間の用途や人の感覚によって快適さが異なる
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照度の数値が基準を満たしていても、実際に過ごすと暗さを感じる場合がある
これらは本や数値からは学べません。
実際に光を体験することの大切さ
良い照明設計を行うために欠かせないのは、実際に光を多く体験すること です。
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美術館で作品を照らすライティングを観察する
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カフェやホテルの照明演出を感じ取る
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自宅やオフィスで光源や器具を変えて違いを比べてみる
こうした体験の積み重ねが、自分の中に「光のイメージ」を育てていきます。
設計ソフトの画面上で得られる数値は、そのイメージを裏付けるための道具にすぎません。
光を体験するための実践チェックリスト
照明設計を学ぶうえで大切なのは、実際に光を見て・感じて・比べること。
以下のチェックリストを参考に、日常生活の中で光を意識的に体験してみましょう。
① 色温度(光の色合い)を感じる
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自宅の電球(電球色2700K、昼白色5000Kなど)を切り替えて違いを体感する
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カフェやレストランで「温かみを感じる照明」と「すっきり明るい照明」の違いを観察する
② 明るさ(照度)の違いを体験する
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本を読むときに、手元が何ルクス程度で快適に感じるかを意識する
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オフィスや図書館での「ちょうどいい明るさ」と、暗すぎる/明るすぎると感じる状況を比べる
③ 光の広がり方(配光)を観察する
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スポットライトとダウンライトの違いを見比べる
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壁にできる「明暗の境界線(グラデーション)」に注目する
④ 影と均斉度に注目する
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テーブルや椅子の下にできる影を観察し、「暗さが気になるかどうか」を感じてみる
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均一に照らされている空間と、ムラがある空間の印象を比べる
⑤ 素材と光の関係を意識する
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木目・白壁・ガラス・金属など、仕上げ材によって光の反射や色の見え方がどう変わるか観察する
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同じ光源でも、壁の色や素材によって「暖かく見える/冷たく見える」違いを探す
⑥ 心地よさを言語化する
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「落ち着く」「落ち着かない」「集中できる」「華やかに感じる」「陰気」など、空間で得た印象を言葉にして記録する
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その感覚が、照明のどの要素(明るさ・色・影・分布)に影響されているか考えてみる
まとめ
DIALux evoを正しく使うために必要なのは、
知識 × 体験 × 解釈力 の掛け合わせです。
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知識だけに頼ると、机上の理論に偏る
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ソフトの数値だけに頼ると、現実感を失う
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実際の光を体験し、自分なりの「明るさの基準」を持つことで、ソフトの結果を正しく活かせる
光は数値で測ることができますが、最終的に設計を評価するのは 人の感覚 です。
日常の中で光を意識的に体験し、自分の中に「明るさのイメージ」を蓄積していくことが、DIALux evoを正しく活かし、良い照明設計につなげる一歩となります。
最終的に、良い照明設計は“知識を詰め込むこと”からではなく、“光を体験してイメージを持つこと”から生まれる のです。